もしも「うしおととら」がサルに関する研究論文だったら

最近読んだ面白い本の話をしたいのだが、まあ聞いておくれよおっかさん。

「うしおととら」という古いマンガがある。
暑苦しい、絵が下手、汚い、暴力的と、それはそれは見事な罵倒(でも一見当たっている)を受けた挙げ句、新品の単行本をお母さんに人差し指と親指でつままれたことがあるマンガである。
しかし母がどう扱おうと少年マンガの金字塔である。
少年マンガかくあるべし。息子(2歳)にも伝えたいマンガのひとつである。

「うしおととら」を知らない方のために説明を。
「うしおととら」は確かに野蛮な話かもしれない。
ひょんなことから“とら”と呼ばれる妖怪に取り憑かれた中学生・蒼月潮(あおつきうしお)が、これまたひょんなことから手に入れた妖怪を滅する“獣の槍”(けもののやり)を駆使して妖怪退治をする話なのである。
潮に取り憑いているとらは、隙あらば潮を喰おうとする。しかし潮の絶体絶命の危機に、とらは「他の妖怪に喰われない」ためにとイイワケしつつ「嫌々」潮を救い、結果として2人力を合わせて数多の敵を撃破していく。

これだけならよくあるトムとジェリー的ツンデレ仕様マンガにすぎない。このマンガのすごいところは伏線のすごさである。
伏線といっても「謎」がばらまかれているわけではない。
「うしおととら」は数話完結の物語を繰り返して構成されている。個別の物語は数話で「完結」するのだ。
ところが物語の終盤、最後の敵との戦いにおいて最大のピンチ、絶望が支配したとき、終わったはずの数々の個別の物語が、実はすべて最後の強敵を倒すための布石だったことが突然わかる。

曰く「おまえたちの旅は無駄ではなかった。」

伏線の種明かしのそのときに初めて、これまでのすべてが実は伏線だったことが初めてわかるのである。
なんという壮大な仕掛け! 計算! このゾクゾク感は直に体験しないとわかるまい。

バラバラに提示された独立した物語がクライマックスで一気に収束し、完璧に一つの大きな物語となる。
これほど大がかりで劇的で美しくて感動的な物語を僕はこれまで見たことがなかったのである。

で、ここでやっと本題の面白い本にご登場願いたい。


■「親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る」島泰三・著 (中公新書)
親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る (中公新書)親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る (中公新書)
島 泰三

中央公論新社 2003-08
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★★★★★(満点)

筆者はサル(とくにアイアイ)研究の第一人者らしい。
親指はなぜ太いのか。そんなこと僕は知ったこっちゃない。
しかしそのあとの「直立二足歩行の起源に迫る」という言葉に惹かれた。未来より過去にこだわるのはいつでも男なのである。

期待をもってページをめくる僕。
これを読めばおれの起源がわかるのだ。ちょっとドキドキしたり。
直立二足歩行の起源と僕自身のルーツをごっちゃにしてる気がするが気にしない。
ところがいくらページをめくれど延々とサルの専門的な話が続くだけなのである。
サルの口と手の形、移動方法はその主食によって説明される。その照明事例としてさまざなサルの例が挙げられる。
正直言って専門的すぎて頭がついていかない。しかし読むのを止められない。呆れたからではない、面白いからだ。

読み物としてとっても面白い。
事実と推察を明確に区分するこれ以上ないほどの理性的文章である。それでいて感情的なのだ。サルへの恋心が、先人の研究者への畏敬があふれているのである。
僕も熱にあてられどんどんサルが好きになる始末。
もはやサルに恋しすぎてサルに関する調査書をニンマリ読み耽るストーカーに等しい僕。
ここでやっとにわかに浮上する「直立二足歩行の起源」の話。ああそうだった、本題忘れてた。

途端、個々のサルのエピソードが一気に「起源」の布石だとわかる。
言われるがままに立てていたドミノが一気に倒れて大きな絵が現れた感じである。

うわー、「起源」そうキタかー!!
しかも出てきた絵は想像と全然違った。なにこのすごい結末。興奮冷めやらぬ。
夜寝る前に読みたくない本に認定します。


ちなみに島泰三は到津の森公園園長・岩野俊郎氏の実兄である。
上の2人+元旭山動物園園長・小菅氏と→こんな本も書いた。
動物兄弟、そろって熱すぎる。冬のお供にぜひどうぞ。


最後にこの本のamazonでのPRをコピペします。

アイアイの一本だけ離れて生えている太くて短い親指、ガラスさえ噛み砕くほど堅い歯。人類の手と口は、他の霊長類に例のない特異なものである。
霊長類の調査を長年続けてきた著者は、サルの口と手の形、移動方法は、その主食によって決定されることを解明し、「口と手連合仮説」と名づけた。
なぜアイアイの中指は細長いのか、なぜチンパンジーは拳固で歩くのか、そして人類は何を食べ、なぜ立ちあがったのか。
スリリングな知の冒険が始まる。

な? 誰が紹介しても熱くなんですよw

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